社会福祉法人の税務

社会福祉法人と国税

法人税

課税判定

社会福祉法人は、法人税法上、公益法人等に該当し(法人税法第2条第6号、別表第二)、公益法人等が行う収益事業から生じた所得以外の所得については、法人税が非課税とされています(法人税法第7条)。ただし、ここでいう「法人税法上の収益事業」と「社会福祉法上の収益事業」は、それぞれ定義が異なっているため、実際に社会福祉法人が行っている事業が「法人税法上の収益事業」に該当するか否かを個々に判定する必要があります。

「法人税法上の収益事業」に該当するか否かのポイントは以下の2点です。

1.継続して事業場を設けて行われているか

法人税法上の収益事業」は、「継続して事業を設けて行われているもの」とされています。
「継続して行われるもの」とは、「各事業年度の全期間を通じて継続して事業活動を行うもの」のほか、「通常一の事業計画に基づく事業の遂行に相当期間を要するもの」や、「通常相当期間にわたって継続して行われるもの又は定期的に、若しくは不定期に反復して行われるもの」が含まれます(法人税法基本通達15-1-5)。
「事業場を設けて行われるもの」とは、「常時店舗、事務所等事業活動の拠点となる一定の場所を設けてその事業を行うもののほか、必要に応じて随時その事業活動のための場所を設け、又は既存の施設を利用してその事業活動を行うもの」が含まれます(法人税法基本通達15-1-4)。

2.収益事業の34業種に該当するか

「法人税法上の収益事業」は、「販売業、製造業その他の政令で定める事業」(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む。)とされており、具体的には、法人税法施行令第5条に34業種が限定列挙されています。
ただし、医療保険業や社会福祉事業として行う不動産貸付業・席貸業(施設の一部を使用させること)は、法人税法施行令第5条に限定列挙されている事業ですが、社会福祉法人が行う場合は非収益事業となります。
また、国又は地方公共団体から事務処理の委託を受けた場合には、請負業に該当しますが、委託の対価が事務処理のために必要な費用を超えず、あらかじめ所轄税務署長の確認を受けた場合には非収益事業となります。
さらに、障害者・生活保護者・寡婦・高齢者(65歳以上)が、その事業に従事する者の総数の半数以上を占め、かつ、その事業がこれらの者の生活の保護に寄与している事業は、非収益事業となります。

みなし寄附金制度

社会福祉法人が行う事業が法人税法上の収益事業に該当する場合であっても、収益事業に属する資産のうちから非収益事業のために支出した金額(みなし寄附金)については、収益事業にかかる所得金額の50%相当額と年200万円のうち、いずれか大きい額を限度として、支出した事業年度の損金に算入できるという優遇制度があります(法人税法第37条第5項)。

この適用を受けるためには、適用年度中に収益事業から非収益事業に資金を繰り入れる経理を行う必要があります。

また、みなし寄附金を利用した結果、課税所得が生じないこととなった場合であっても、申告は必要となる点に留意が必要です。

申告手続

中間申告

社会福祉法人は、法人税法第71条に規定する普通法人に該当しないため、法人税の中間申告は不要です。同様に地方税(法人住民税及び法人事業税)の中間申告も不要です。

確定申告

社会福祉法人が法人税法上の収益事業を行う場合には、会計年度終了後2か月以内(5月末まで)に、確定申告書を提出し、法人税法を納付する必要があります(一般営利法人と同様です)。なお、申告期限を1か月間延長することができるのも、一般営利法人と同様です。

損益計算書等の提出

収益事業を行っていない社会福祉法人で、年間の収入金額の合計額が8,000万円を超える場合は、会計年度終了の翌日から4か月以内(7月末まで)に、「公益法人等の損益計算書等の提出書」に損益計算書または収支計算書を添付して税務署に提出しなければなりません。

 

消費税

課税判定

社会福祉事業

社会福祉法人における第一種・第二種社会福祉事業として行われるサービスの提供の対価は、原則として消費税が非課税となります。ただし、社会福祉事業の一環として行われる生産活動は、課税対象となります(消費税法別表第一第7号ロ、消費税法基本通達6-7-5、同6-7-6)。

上記の生産活動とは、具体的には障害者等が就労に必要な知識や作業能力向上のために行う軽作業、食品製造作業などを指し、これらの活動の結果生じた物品の販売、サービスの提供その他の資産の譲渡等の対価については、消費税が課税されるというものです。

また、特別養護老人ホームなどにおける介護サービスの対価についても、非課税となっています(消費税法別表第一第7号イ)。ただし、通常の居住費、食費、日常生活費などは非課税ですが、特別な居室や食事の提供の対価等は課税対象となります(消費税法基本通達6-7-1、同6-7-2)。

社会福祉事業に類するもの

社会福祉事業には該当しないものの、社会福祉事業として行われるサービスに類するものについては非課税となります(消費税法別表第一第7号ハ)。

上記の具体的な範囲については、消費税法施行令第14条の3に規定されています。

その他の取引

上記の社会福祉事業及びそれに類するもの以外の事業から生じた下記のような取引については、課税取引となります。

  • 固定資産の売却収入
  • 職員給食費収入
  • 各種行事での売上金
  • 自動販売機手数料
  • 売店における販売収入 など

特定収入と仕入税額控除

社会福祉法人は、一般営利法人とは異なり、補助金や寄附金等の対価性のない収入を恒常的な財源としています。消費税法は、「対価を得て行われる取引」が課税対象となっているため、これらの対価性のない収入は消費税が非課税となります。一方、この対価性のない収入により課税仕入れを行ったものまで仕入税額控除の対象とすることは合理性がないため、これを仕入税額控除から除外する特例計算が適用されます。

なお、この特例計算は本則課税にのみ適用され、簡易課税を用いる場合には適用されません。

特定収入の範囲

特定収入に該当する収入の主な例として、以下のものがあります。

  • 補助金
  • 寄附金
  • 保険金
  • 交付金
  • 会費等
  • 損害賠償金
  • 出資に対する配当金 など

上記の収入のうち、給与の支払や利子の支払いにかかる補助金等は、課税仕入れでないものを賄う収入であるため、特定収入には該当しない点に注意が必要です。

また、対価性のない収入のうち、課税仕入れに使用されないことが明らかな下記の収入(特定収入以外の収入)は、特定収入から除外されます。

  • 通常の借入金等
  • 預り金
  • 人件費補助金
  • 利子補給金
  • 土地購入のための補助金 など

特定収入割合(特定収入と資産の譲渡対価の合計額に占める特定収入の割合)が5%を超える場合、特定収入に係る課税仕入れ等の税額は仕入税額の控除の対象とならないため、調整計算が必要となります。

 

源泉所得税

社会福祉法人の支払いを受ける預貯金の利子、剰余金の配当等は、源泉所得税が課されないこととされています(所得税法第11条)。そのため、社会福祉法人名義で口座を開設している場合には、金融機関等が非課税とするための手続を行っているため、法人側での特段の手続は不要となります。

 

印紙税

社会福祉法人における印紙税の取扱いは、一般営利法人と同様であり、対象となる書類が「印紙税額一覧表」の「課税文書」に該当するか否かの判定を行います。

ただし、社会福祉法人が発行する領収書については、社会福祉法人はたとえ収益事業を行う場合であっても、収益事業で得た利益の分配は認められておらず、商法上の商人としての性格を持たないことから、当該領収書は「営業に関しない受取書」に該当するため、非課税とされています。

生計困難者に対して無利子又は低利で資金を融通する事業による貸付金の契約書は、非課税とされています(印紙税法第5条、別表第三)

また、定款については、印紙税法基本通達別表の第1の6号文書において、「株式会社、合名会社、合資会社、合同会社又は相互会社の設立のときに作成する定款の原本に限り第6号文書に該当する」とあるため、社会福祉法人が作成する定款については印紙税が非課税となります。

 

登録免許税

設立登記・変更登記

社会福祉法人の設立登記及び変更登記は、登録免許税の課税対象となっていません。

不動産登記

社会福祉法人における、以下の不動産登記にかかる登録免許税は非課税とされています(登録免許税法第4条第2項)

  1. 社会福祉法第2条第1項に規定する社会福祉事業の用に供する建物の所有権の取得登記又は当該事業の用に供する土地の権利の取得登記
  2. 自己の設置運営する学校(学校教育法第一条に規定する幼稚園に限る。)の校舎等の所有権の取得登記又は当該校舎等の敷地、当該学校の運動場、実習用地その他の直接に保育若しくは教育の用に供する土地の権利の取得登記
  3. 自己の設置運営する保育所若しくは家庭的保育事業等の用に供する建物の所有権の取得登記又は当該建物の敷地その他の直接に保育の用に供する土地の権利の取得登記
  4. 自己の設置運営する認定こども園の用に供する建物の所有権の取得登記又は当該建物の敷地その他の直接に保育若しくは教育の用に供する土地の権利の取得登記

一方で、上記以外の事業の用途に供する不動産については、一般営利法人と同様に登録免許税が課されます。

登録免許税の非課税措置を受けるためには、不動産の移転登記の前に、所轄庁に交付申請した「登録免許税非課税証明願」を法務局に提出する必要があります。

 

社会福祉法人と地方税

法人住民税・法人事業税

社会福祉法人が法人税法上の収益事業を行う場合には、法人住民税及び法人事業税が課税されます(地方税法第25条)。

ただし、法人住民税に関しては、社会福祉法人が、収益事業の所得金額の90%以上の金額を社会福祉法第2条第1項に規定する社会福祉事業に充てている場合には、当該収益事業は収益事業に含まないこととされています(地方税法施行令第7条の4、47条)。この適用を受ける場合には、都道府県及び市町村に対し「非課税判定表」を提出する必要があります。

法人事業税については、上記の適用はありません。

 

不動産取得税

社会福祉法人が社会福祉事業及びその他の地方税法第73条の4第1項各号に記載された施設に用に供するために取得した不動産取得税は、非課税となります。この適用を受ける場合には、都道府県に対し「不動産取得申請書」や「不動産取得税非課税申告書」(名称は各都道府県により異なります)を提出する必要があります。

 

固定資産税

社会福祉法人が社会福祉事業及びその他の地方税法第348条第2項各号に記載された施設の用に供する不動産にかかる固定資産税は、非課税となります。この適用を受ける場合には、市町村に対し「固定資産税非課税適用申請書」(名称は各市町村により異なります)を提出する必要があります。

賦課期日(1月1日)において社会福祉事業の用に供されていない不動産については課税対象となりますが、賦課期日後に社会福祉事業の用に供したときは、市町村に対して申請を行えば賦課決定された固定資産税の減免を受けることができる場合がありますので、各市町村に確認してください。

 

自動車税・軽自動車税・自動車取得税

社会福祉法人が社会福祉事業の用に供する目的で取得・保有する自動車について、自動車税・軽自動車税・自動者取得税を減免を受けることができる場合がありますので、各自治体に確認してください。

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