社会福祉法人の概要

社会福祉法人の概要

 

社会福祉法人とは

社会福祉法人とは、社会福祉法において「社会福祉事業を行うことを目的として、この法律の定めるところにより設立された法人」と定義されています。

「社会福祉事業」とは、社会福祉法第2条に定められている「第一種社会福祉事業」及び「第二種社会福祉事業」をいいます。

第一種社会福祉事業は、特に利用者への影響が大きい、経営安定を通じた利用者の保護の必要性が高い事業(主として入所施設サービス)が該当します。
そのため、社会福祉法は第一種社会福祉事業の経営主体を限定しており、原則として国、地方公共団体または社会福祉法人のみが運営できることとされています。
(一部の第一種社会福祉事業は、会社等の法人でも経営主体になることができますが、所轄庁の許可が必要となります)

なお、第二種社会福祉事業については経営主体に特段の制限はされていません。

また、社会福祉法人は、社会福祉事業のほか、支障がない限り、公益事業及び収益事業を行うことができるとされています。

社会福祉法人は、所轄庁の認可により設立されます。また、法人の運営に関し、所轄庁の指導監査を受けることになります。なお、社会福祉法人の所轄庁は、次のように区分されています。

所轄庁 社会福祉法人が行う事業の範囲
市長 主たる事業所が市の区域内にある社会福祉法人であって、その行う事業が当該市の区域を越えないもの
都道府県 知事 所轄庁が市長または厚生労働大臣でないもの
厚生労働省 厚生労働大臣 2以上の地方厚生局の管轄区域にわたるものであって、厚生労働省令で定めたもの

 

社会福祉法人は、社会福祉法という特別な法律によって設立された、社会福祉事業という特殊な事業を行う民間企業(公益法人)の一つとして位置づけられます。

社会福祉法人は、社会福祉事業の主たる担い手としてふさわしい事業を確実、効果的かつ適正に行うため、自主的にその経営基盤の強化を図るとともに、提供する福祉サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図らなければならないとされています。

 

第一種社会福祉事業とは

第一種社会福祉事業とは、社会福祉法第二条第2項に限定列挙された事業であり、次のような事業が該当します。

生活保護法に規定する事業

救護施設、更生施設その他生計困難者を無料又は低額な料金で入所させて生活の扶助を行うことを目的とする施設を経営する事業及び生計困難者に対して助葬を行う事業

児童福祉法に規定する事業

乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設又は児童自立支援施設を経営する事業

老人福祉法に規定する事業

養護老人ホーム、特別養護老人ホーム又は軽費老人ホームを経営する事業

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に規定する事業

障害者支援施設を経営する事業

売春防止法に規定する事業

婦人保護施設を経営する事業

授産施設を経営する事業

生計困難者に対して無利子又は低利で資金を融通する事業

共同募金

 

第二種社会福祉事業とは

比較的利用者への影響が小さく、 公的規制の必要性が低い事業(主として在宅サービス)が該当します。

主な事業として、児童福祉法に規定する保育所、老人福祉法に規定する老人デイサービス事業、障害者自立支援法に規定する障害福祉サービス事業などがあげられます。

 

公益事業と収益事業について

社会福祉法人は、公益事業及び収益事業を行うことができますが、それぞれ以下の要件を満たしている必要があり、原則として定款への記載が必要になります。

なお、公益事業や収益事業によって得た収入は、社会福祉事業または公益事業のために使わなければならないこととされています。

公益事業

社会福祉と関係のある公益を目的とする事業である必要があります。また、社会福祉事業の従たる地位にある事業であることが求められています。

主な事業として、介護保険法に規定する居宅サービス事業や有料老人ホームを経営する事業などがあげられます。

収益事業

収益事業で稼得した収益は、社会福祉事業又は一定の公益事業に充てる必要があります。
また、公益事業同様、社会福祉事業に対し、従たる地位にある事業であることが求められています。

法人の所有する不動産を活用して行う貸ビル、駐車場の経営などがあげられます。

 

社会福祉法人の機関設計

社会福祉法人では、評議員、評議員会、理事、理事会、監事及び会計監査人(一定規模以上の場合)の設置が義務付けられています。

 

評議員、評議員会

評議員は、「社会福祉法人の適正な運営に必要な識見を有する者」であることが求められ、定款で定める方法により選定されます。
なお、社会福祉法人の役員または職員を兼ねることができません。

評議員の数は、定款で定めた理事の員数を超える数である必要があり、最低7名必要となります。

評議員の任期は、原則として4年であり、定款の定めにより6年に延長することができます。

評議員会は、全ての評議員で組織され、社会福祉法人法に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができることとされています。

評議員会は、必要がある場合にはいつでも招集することができることとされていますが、最低限、毎会計年度の終了後一定の時期に招集しなければならないこととされています。

 

理事、理事会

理事は、法令及び定款を遵守し、社会福祉法人のため忠実にその職務を行うことを義務付けされた機関であり、評議員会の決議によって選任されます。

理事は6人以上である必要があり、そのうち、次に掲げる者が含まれなければならないとされています。

  1. 社会福祉事業の経営に関する識見を有する者
  2. 当該社会福祉法人が行う事業の区域における福祉に関する実情に通じている者
  3. 当該社会福祉法人が施設を設置している場合にあつては、当該施設の管理者

理事の任期は2年(選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで)とされています。
なお、定款でこの任期を短縮することが可能です。

理事会により、理事の中から理事長を1人選任する必要があります。理事長は、社会福祉法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します。

理事会は、全ての理事で組織され、社会福祉法人の業務執行の決定、理事の職務執行の監督、理事長の選定及び解職を職務としています。
また、理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができないとされています。

  1. 重要な財産の処分及び譲受け
  2. 多額の借財
  3. 重要な役割を担う職員の選任及び解任
  4. 従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
  5. 理事の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他社会福祉法人の業務の適正を確保するために必要なものとして厚生労働省令で定める体制の整備

 

監事

監事は、理事の職務の執行を監査する機関であり、理事同様、評議員会の決議によって選任されます。

監事は2人以上である必要があり、そのうち、次に掲げる者が含まれなければならないとされています。

  1. 社会福祉事業について識見を有する者
  2. 財務管理について識見を有する者

監事の任期も、理事同様2年(選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで)とされています。
なお、定款でこの任期を短縮することが可能です。

監事は、厚生労働省令で定めるところにより、監査報告を作成する義務があり、一方で、いつでも理事及び当該社会福祉法人の職員に対して事業の報告を求め、又は当該社会福祉法人の業務及び財産の状況の調査をする権限を有します。

 

会計監査人

特定社会福祉法人(収益の額が30億円を超え、又は負債の額が60億円を超えるもの)は、会計監査人の設置が義務付けられています。

会計監査人は、社会福祉法人の計算書類及びその附属明細書を監査する機関であり、役員同様、評議員会の決議によって選任されます。

会計監査人は、公認会計士または監査法人である必要があります。

会計監査人の任期は1年(選任後最初に終了する会計年度に関する定時評議員会の終結の時まで)とされています。
ただし、定時評議員会において別段の決議がされなかつたときは、当該定時評議員会において再任されたものとみなされます。

なお、会計監査人の設置義務のない法人において、「財務会計に関する内部統制の向上に対する支援」または「財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援」について、公認会計士、税理士等の会計専門家を活用することが望ましいとされ、支援を受けた場合に作成される報告書がある場合には、行政による指導監査(一般監査)の実施周期の延長等を行うことができるようになりました。

 

社会福祉法人の設立に必要な資産

社会福祉法人の設立要件は、上記の機関の設置のほか、社会福祉事業を行うに必要な資産を備えなければならないとされています。

社会福祉法人は、社会福祉事業という公共性の高い事業を安定的、継続的に経営していくことが求められており、特に財政面において、確固とした経営基盤を有していることが求められるからです。

 

社会福祉事業に供する不動産

社会福祉法人は、社会福祉事業を行うために直接必要なすべての物件について所有権を有していることが必要とされています。これにより難い場合は、国若しくは地方公共団体から貸与若しくは使用許可を受けていることが必要です。

なお、都市部等土地の取得が極めて困難な地域においては、不動産の一部(社会福祉施設を経営する法人の場合には、土地)に限り、国若しくは地方公共団体以外の者から貸与を受けていることとして差し支えないとされています。この場合には、事業の存続に必要な期間の地上権又は賃借権を設定し、これを登記しなければなりません。

また、特例として、特別養護老人ホームを設置する場合や、地域活動支援センターを設置する場合など、一部の施設について緩和する通知が出されています。

 

基本財産

社会福祉施設を経営する法人は、すべての施設についてその施設の用に供する不動産は、基本財産としなければならないとされています。

ただし、すべての社会福祉施設の用に供する不動産が国又は地方公共団体から貸与又は使用許可を受けているものである場合にあっては、1,000万円以上に相当する資産(現金、預金、確実な有価証券又は不動産に限る。)を基本財産として有している必要があります。

社会福祉施設を経営しない法人は、一般に設立後の収入に安定を欠くおそれがあり、設立時において事業継続を可能とする財政基盤を有することが必要であるため、原則として1億円以上の資産(例えば、定期預金、土地、日本国債など)を基本財産として有していなければならないとされています。

ただし、委託費等で事業継続に必要な収入が安定的に見込める場合は、法人の安定的運営が図られるものとして所轄庁が認める額の資産とすることができます。

 

その他財産

基本財産、公益事業用財産及び収益事業用財産以外の財産は、すべてその他財産となります。

その他財産の処分等に特別の制限はありませんが、社会福祉事業の存続要件に関わるものは、みだりに処分しないように留意する必要があります。

また、法人設立当初は、その他財産に含まれる運転資金として、年間事業費の12分の1に相当する現金預金等を保有していなければなりません。

 

行政による指導監査

行政による指導監査は、社会福祉法に基づき、法人の自主性及び自立性を尊重しつつも、法令または通知等に定められた法人として遵守すべき事項について運営実態の確認を行うことによって、適正な法人運営と社会福祉事業の健全な経営の確保を図ることを目的としています。

指導監査は、一般監査特別監査があり、いずれも実地で行います。

一般監査は、実施計画を策定したうえで、「指導監査ガイドライン」に基づき、一定の周期で実施されます。
特別監査は、運営等の重大な問題を有する法人を対象として、随時実施されます。

 

社会福祉法人のメリットとデメリット

社会福祉法人は、その特殊な性質上、税の優遇措置等の他の事業会社にはない魅力的なメリットがあります。

一方、そのメリットを享受する代わりといっては何ですが、いくつかのデメリット(というより制約)がありますので、注意しましょう。

 

メリット①
税が優遇される

社会福祉法人の公共的性質上、以下のような税金優遇措置がとられています。

  • 社会福祉法人の主たる事業である社会福祉事業と公益事業から生じた所得は非課税とされています。
  • 収益事業から生じた所得についても、他の事業会社よりも税率が低く設定されています(22%)。
  • 収益事業から生じた所得を、社会福祉事業や公益事業に支出した場合、損金算入が認められています。
  • その他、社会福祉事業で保有した不動産に係る不動産取得税や登録免許税は非課税となっています。

 

メリット②
補助金・助成金が多い

国や行政からの助成金や補助金が充実しているというのも、社会福祉法人の大きなメリットです。設備資金の補助や事業費の助成など、他の事業会社に比べて内容・数ともに充実しています。

 

メリット③
信用力が高い

社会福祉法人であること自体、設立時に管轄都道府県等の認可を受けており、さらに、原則として年1回の監査を受けていることになりますので、他の事業会社に比べて、相対的に取引先からの信用力は高くなるものと考えられます。

 

デメリット①
設立要件が厳しい

上記の「社会福祉法人の機関設計」に記載のとおり、設立時に最低限15人(評議員7名、理事6名、監事2名)の協力者を集めなければなりません。加えて、評議員、役員とも社会福祉法人に相当程度の見識がある者でなければならないという適格条件もあり、設立のハードルは一段と高まります。

また、設立時に不動産や基本財産を用意する必要があり、資金的な手当ての面でも他の事業会社よりもハードルが高いと考えられます。

さらに、設立認可を受けるにあたっては、所轄庁において厳格な審査が行われます。この点においても設立のハードルが相当高そうです。

 

デメリット②
事業収入の使途など、資金の流出規制がある

収益事業の剰余金は、社会福祉事業又は公益事業、公益事業の剰余金は社会福祉事業に充てることができるとされています。また、社会福祉事業の剰余金は法人本部会計又は公益事業に充てることができるが、法人外への支出は認められていません。以上から収益事業の剰余金の配当などができないこととなります。

また、社会福祉法人の残余財産は国や他の社会福祉法人に帰属するとされており、株式会社のような株主の残余財産請求権は認められません。

役員報酬はいくらでも良いという訳ではありません。社会福祉法人においても役員報酬の支給基準を定め、他の事業会社に比して不当に高額でないことなどが求められます。また、役員報酬の支給基準は、評議員会の承認を受けるとともに、インターネット上で公表することが義務付けられています。

 

デメリット③
所轄庁への報告書が多く、指導監査を受ける必要がある

社会福祉法人は、設立後においても、所轄庁に様々な書類を提出する必要があります。特に毎会計年度3か月以内に、現況報告書、計算書類、財産目録などを作成し、提出することが求められています。

指導監査の頻度については、社会福祉法人の運営体制の良否を加味して個別に決めるなど、近年緩和の動きが出てきていますが、原則として年1回指導監を受けることを覚悟しておく必要があります。

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