株価算定の計算例

この記事では、株価算定の計算例をいくつかご紹介します。

なお、前提条件や計算結果に用いている数値は、日本公認会計士協会が公表している「企業価値評価ガイドライン」の設例の数値を一部引用しています。

 

アセット(コスト)アプローチの計算例

簿価純資産法

 

簿価純資産法は、会計上の簿価純資産額に基づいて一株当たり純資産の額を計算する方法です。

表のとおり、簿価ベースで作成された貸借対照表の簿価純資産(20M)を発行済株式総数(100株)で割ることで1株当たり純資産(200,000円)を算出します。

 

時価純資産法(修正簿価純資産法)

時価純資産法(修正簿価純資産法)は、貸借対照表の資産負債を時価で評価し直して純資産額を算出し、一株当たりの時価純資産額をもって株主価値とする方法です。

例えば、土地の含み益がある場合など時価を株価に反映させたい場合に採用される方法です。

表のとおり、時価ベースで作成された貸借対照表の純資産(40M)を発行済株式総数(100株)で割ることで1株当たり純資産(400,000円)を算出します。

 

清算価値法

 

清算価値法は、保有する全資産の処分価額から弁済する債務を控除した清算価値を基に算出する方法です。解散を前提とする会社に該当する評価方法といえます。

表のとおり、清算価値ベースで作成された貸借対照表の簿価純資産(10M)を発行済株式総数(100株)で割ることで1株当たり純資産(100,000円)を算出します。

 

インカムアプローチの計算例

DCF法(FCF法、現在価値法、ディスカウント・キャッシュフロー法)

DCF法(FCF法、現在価値法、ディスカウント・キャッシュフロー法ともいいます。以下すべてDCF法とします)は、将来の営業フリー・キャッシュ・フローの期待値を加重平均資本コストで割り引いた現在価値の合計を事業価値として計算する方法です。

計算イメージは下記のとおりです。

なお、今回の計算例では、いったん将来キャッシュ・フローの合計値として事業価値を算定し、これに事業外資産と有利子負債を加減して株主価値を算出する方法を解説します。

 

 

DCF法の具体的な算定式です。

右辺の第1項から順に、1年後のFCFの現在価値・2年後のFCFの現在価値、3年後のFCFの現在価値、以降、n年度のFCFの現在価値・n+1年後以降のFCFの現在価値を示しています。

最終項のターミナルバリュー(終価)が若干分かりにくいかもしれません。これは

「n+1年度以降の単年度のキャッシュフローは直接は見積もれないため、n年度のキャッシュフローがn+1年度以降も常に同額発生すると仮定し、それが永久に続くことを前提に計算した場合の、n年度末時点におけるn+1年度以降のFCFの現在価値

であり、つまりはn+1年度以降から生じる事業価値を簡便に算出しようというものです。

 

DCF法の計算例に使用する前提条件です。

現在時点が20×1年度末であり、1年後が20×2年度、2年後が20×3年度、3年後が20×4年度であり、20×4年度まで具体的な将来予測が立てられています。

20×5年度以降は20×4年と同様に取り扱います。

DCF法の計算に使用するキャッシュフローはFCF(フリー・キャッシュフロー)とし、税引後の営業利益から減価償却費・資本的支出・運転資本増加額を加減したものとします。

割引率は加重平均資本コスト(WACC)を使用します。WACCは株主資本コスト(株主が期待する利回り)と有利子負債コスト(平均借入利子率)を加重平均したものです。今回は簡略化のために加重平均資本コスト(WACC)は所与(10.00%)としています。

 

それでは、計算式に数値を代入して事業価値と株主価値をそれぞれ算定しましょう。

結果、事業価値は22,273、株主価値は16,273となりました。

条件さえ揃えば、計算自体は簡単ですね。

 

APV法(調整現在価値法)

APV法(調整現在価値法、以下APV法)は、DCF方同様、将来キャッシュフローを、一定の割引率を用いて現在価値を算出する方法ですが、全額自己資本で資金調達していると仮定し、負債による節税効果の現在価値を加味することによって事業価値を算定するという方法です。

全額自己資本で資金調達していると仮定した事業価値を無負債事業価値と言います。

無負債事業価値を算定する際に使用する割引率は、「自己資本ですべて資金調達していると仮定した場合の株主資本コスト」を用います。

負債による節税効果とは、「有利子負債の支払利息が損金算入されることにより、税金が安くなる効果」であり、今回の計算例では、支払利息に実効税率を掛けたものを用います。

節税効果の現在価値を算定する際に使用する割引率は、有利子負債の平均借入利子率を用います。

最後に、無負債事業価値と節税効果の現在価値を足し合わせて事業価値を算定ます。

 

APV法の計算例に使用する前提条件です。

ここでは、無負債株主資本コストは所与(11.3%)とします。

 

それでは、計算式に数値を代入して事業価値と株主価値をそれぞれ算定しましょう。

APV法による株主価値は16,444となり、DCF法の計算結果(16,273)とおおむね一致しました。

 

残余利益法

残余利益法は、評価時点において、「営業活動に利用している総資産簿価に、将来における営業残余利益の期待値の現在価値合計を加える」ことによって事業価値を算定する方法です。

残余利益は、税引後の営業利益から期首時点における営業総資産に加重平均資本コストを乗じたものを控除したものをいいます。言い換えれば「残余利益は、税引き後の営業利益から1年間の正常な株主コストと負債コストを控除した残額」となります。

これらの残額の現在価値の合計額が「評価時点の営業総資産から生み出されると予想されるマージン」であり、事業価値は評価時点の営業総資産と当該マージンの合計額である、と捉えることができます。

 

残余利益法で事業価値を算定するためには、営業総資産を把握する必要があります。

今回の計算例では、流動資産から固定負債を控除した正味運転資本と固定資産の合計額を営業総資産とします。

なお、営業活動に利用していない非事業資産は営業総資産から控除する必要がありますが、今回の計算例では簡略化のため、非事業資産は存在しないものと仮定します。

 

それでは、計算式に数値を代入して事業価値と株主価値をそれぞれ算定しましょう。

残余利益法の株主価値の計算結果は16,273となり、DCF法の計算結果と一致しました。

 

配当還元法

配当還元法は、株主への直接的な現金支払いである配当金に基づいて株主価値を算定する方法です。

ここで重要なことは、配当還元法は株主価値を直接計算する方法ということです。DCF法やAPV法の計算の対象となる資金流入は「事業から得られる将来キャッシュフロー」であるため、これを現在価値に割り戻した数値は事業価値になります。一方、配当還元法の計算の対象となる資金流入は配当金であり、株主への直接的な現金支払い額であるため、これを現在価値に割り戻した数値は(配当を期待する株主から見た)株主価値になるということです。

配当還元法で計算される株主価値は、「当期に発生した株主に帰属すべきキャッシュフローのうち、当期にいくら配当されるか」によって大きく変動します。

(いくら儲けてキャッシュフローが発生しても、配当がゼロであれば、配当還元法における株主価値はゼロとなってしまいます)

 

配当還元法で使用する割引率は、株主が期待する利回りである株主資本コストを用います。

株主資本コストは所与(13%)であるとします。

 

それでは、計算式に数値を代入して事業価値と株主価値をそれぞれ算定しましょう。

配当還元法による株主価値の計算結果は16,243となり、DCF法の計算結果(16,273)とおおむね一致しました。

この計算例では、株主に帰属すべきキャッシュフローは発生年度に全て配当するという前提を置いているためです。

 

利益還元法(収益還元法)

利益還元法(収益還元法、以下利益還元法)は、会計上の純利益を一定の割引率で割り引くことによって株主価値を計算する方法です。

ここで、割引率を何にするかが問題となります。

つまり、会計上の純利益が株主に帰属するキャッシュフローと一致するのであれば、割引率を株主が期待する利回りである株主資本コストとすべきですが、一般的には会計上の純利益と株主に帰属するキャッシュフローは異なります(株主に帰属するキャッシュフローは、税引後利益に減価償却費、資本的支出、運転資本増加額、借入金純増減額などを加減して算出されるため)。

そのため、割引率を算定するにあたっては、例えば、類似業種の上場企業の株価から株主価値を算定し、公表されている会計上の純利益との関係から逆算して割引率を推定計算する、といった方法などが考えられます。

 

割引率は所与(類似業種を参考して14%)とします。

配当還元法による株主価値の計算結果は16,300となり、DCF法の計算結果(16,273)とおおむね一致しました。

ただし、これは配当還元法の計算結果とDCF法の計算結果がおおむね一致するような割引率(14.0%)を筆者が意図して採用したためです。

 

マーケットアプローチの計算例

市場株価法

市場株価法は、証券取引所や店頭登録市場に上場している会社の市場価格を基準に評価する方法です。

例:ある非上場会社Xについて、類似業種である上場会社Y社の市場株価を基準に株価算定を行う。

X社の株価の評価基準日は202×年5月1日であるため、基準とするY社の株価データとして、評価基準日の前月1か月間の日々の終値を用いることとした。

取引日ごとの終値と出来高を乗じた金額の月間合計額(2,391,774,300円)を出来高の月間合計数(788,000)で除すことによって、加重平均株価3,035.25円が算出されました。

 

類似業種比較法(類似上場会社法、倍率法、乗数法)

類似業種比較法(類似上場会社法、倍率法、乗数法、以下類似業種比較法)は、上場会社の市場株価と比較して非上場会社の株式を評価する方法です。

類似業種比較法は、以下のステップで計算します。

  • 類似する上場会社を選定する(A社)。
  • 選定した上場会社(A社)と評価対象会社(X社)の1株当たり利益や純資産などの財務数値を計算する。この計算例では1株当たり税引後利益とします。
  • 選定した上場会社(A社)の株価(3,298円)と財務数値(1株当たり税引後利益194円)の倍率を計算する(17倍)。
  • 評価対象会社の財務数値(1株当たり税引後利益32円)に倍率(17倍)を掛けて評価対象会社の株価を算定する(544円)。

 

類似取引比較法(類似取引法)

類似取引比較法(類似取引法、以下類似取引比較法)は、類似のM&A取引の売買価格と評価対象会社の財務数値に関する情報に基づいて計算する方法です。

基本的な考え方は類似業種比較法と同じですが、株価算定にあたってM&A取引の売買価格を参考としている点が特徴的です。

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